月の出た場所

今年(2011年)の中秋の名月は9月12日(月)でした。当日、奈良は午後から雲が広がり、今年は月が観られないかと心配したのですが、夕方には少しずつ晴れてきて月が見えました。西ノ京から東の明るい空を眺めると、お盆の時に奈良の大文字焼きが行われる高円山の少し北側に白い月が出ていました。阿倍仲麻呂が「三笠の山に出でし月かも」と詠った御蓋山からは、かなり南に振った場所でした。

昨年より少なかった参拝者

昼間に曇っていたためと、平日であったためでしょうか、今年の唐招提寺の観月讃仏会は参拝者が昨年より随分少なかったです。そのため、写真もかなり撮り易かったです。観月讃仏会法要の様子、夕暮れに端坐する盧舎那仏像、光り輝く三体の仏像などの写真をアップしますので、ご覧ください。

境内は夕闇から次第に夜の暗がりになっていき、置き行燈の灯りが明るさを増していきました。金堂の前では聞こえなかった虫の声も、御影堂への道を歩いて行きますと聞こえてきました。

御影堂の庭の公開

唐招提寺の御影堂は開祖・鑑真和上の命日である開山忌に3日間一般公開されますが、実は中秋の名月の日にも御影堂の庭が公開されます。御影堂の扉ははずされ、薄暗がりの中に鑑真和上の厨子と東山魁夷さんの襖絵『濤聲』と『山雲』が幽かに見えます。

宸殿の間の前庭にはススキなどを飾った花入れが台に置かれています。昨年は、茶道の宗匠がゆっくりとした所作でお茶を点て、鑑真和上が月を愛でる場を整えるように、この台の上にお茶を供えていました。私は今年、お茶を点てるところは見ませんでした。中秋の御影堂の庭に立つ人、御影堂の濡れ縁に腰を下ろしている人、それぞれの思いで堂内や空を観ていました。月はしばし雲に隠れていましたが、再び姿を現しつつありました。

薄暗がりの中の襖絵と鑑真和上坐像

薄暗がりの中で観る襖絵は『濤聲』の海の色が暗く見えます。そこに幽玄の美を感じる人と、明るい日差しの中で観るきれいな海の色が好きだと思う人の両方に別れるように私は思いました。

そんな私の思いとは全く無関係に、鑑真和上は襖絵の中央部に置かれている厨子の中から、「風月同天」の月を清々しい気持ちで観ているように感じました。