飄々とした風貌と可愛らしい詩書画で人気がある榊莫山(さかきばくざん)の書が東大寺には沢山あります。

1、世界遺産登録記念碑の書

大仏殿交差点から東大寺へ参道を歩いていくと、南大門の手前の右側に世界遺産登録記念碑があります。畳一畳分くらいの大きな石に「世界遺産 古都奈良の文化財 東大寺」と文字が彫られているのですが、その文字が榊莫山の書です。

見るからに莫山の書らしく、温かみと可笑しみが感じられます。特に私は東大寺という3文字が大好きです。「東」はお腹の出た中年のオジサン(莫山の体型?)をイメージさせますし、「大」はやんちゃな人が大の字になって寝ている姿を感じさせます。そして「寺」は上の土の部分と下の寸の部分が右と左に「あっち向いてホイ」をしていて、しかも一本の筋が通って一体になっているのが素晴らしいと思います。

2、二月堂に掲げられている額の書

二月堂の舞台から奈良の遠望を楽しんだ後、舞台の北側にある登廊へ向かおうとする出口の鴨居に大きな木製の額が2つ掲げられています。右側の額が榊莫山の書で、一見、何と読むのか分かりません。後で調べて「百華百香」だと分かりました。百と香の文字は何となく読めますが、華の字はまったく思いが至りませんでした。あえて言えばクサカンムリだけは気が付きました。

「百華百香」の意味は、沢山の華が沢山のそれぞれ香り(持ち味)を発しているということでしょうか。そして、東大寺の重要なお経『華厳経』の元々の名前は「良い香りを発している華輪飾りのような、素晴らしい経典」と言えますから、それを意識して書いた言葉かもしれません。つまり、「経典の色々な言葉が、素晴らしい教えを漂わせている」ことを示しているのではないかと思うのです。

3、ミニ・西国三十三か所巡り碑の書

二月堂の裏手の観音山には西国三十三か所巡りのミニ版があります。山の麓に札所の寺名が彫られた石と観音像が次々と置かれていて、約15分で番外札所も含め全ての霊場を巡れます。忙しい(ズボラな?)現代人には有り難い場所です。

この三十三か所巡りの入り口に榊莫山の書を刻んだ石碑が建っています。場所は二月堂の北側で、碑には「二月堂 西國卅三所巡拝道」と味のある字で書かれています。

4、一般には見えない書

東大寺には、上記の他に塔頭の表札や茶屋の看板など榊莫山のユニークな書があって、鑑賞するのが楽しいです。しかし一般には見られない書もあります。榊莫山の著書『莫山 水墨紀行 大和を歩く』や『大和仏心紀行』で知ったのですが、南大門の金剛力士(仁王)像の胎内には莫山が写経した経典4つが納められているのだそうです。楷書で文字数合計が約18,000字とのことですから、書くのは大変だったでしょう。

書いた経文には莫山らしく始めに絵を描き加えたとのことです。描かれた絵はコブシ・ハナミズキ・リンドウ・ツバキの四季の華でした。仏様は華が好きだから描いたのだろうかと思いますし、やはり華厳経の寺ということで華を描いたのかもしれないとも思いました。