①薬師寺の大講堂にある仏足石と仏足跡歌碑  

奈良・薬師寺の大講堂に、ともすれば見落としがちな国宝の仏足石と仏足跡歌碑があります。両者は大講堂本尊の弥勒三尊像の背面に置いてあり、彫られている絵や文字が鮮明でないため、しっかり拝観する人はそれほど多くいません。しかし、ともに日本最古の価値を持つ素晴らしいものです。

②仏足石

釈迦没後に釈迦の姿を礼拝するのは恐れ多いとして、代わりに釈迦の足型を拝むようになりました。仏足石とは釈迦の足型が彫られた石のことです。薬師寺に置いてある仏足石は、縦が1メートル強、横と高さが70センチメートルくらいの大きさで、石の上面に足型が彫られています。

左側面に彫られている、仏足石が日本へ伝わった経緯によると、それは次の通りです。

イ)インドの鹿野苑(釈迦が初めて説法した場所)にあった仏足石の図を、唐朝廷の使者・王玄策が写し取って唐に伝え<第1転写>、長安の寺に仏足石が作られました。

ロ)それを、日本から唐へ行った黄文本実(きぶみほんじつ)が模写して、日本へ伝え<第2転写>、平城京の禅院(どこか不明)に仏足石を作りました。

ハ)それを更に模写して<第3転写>、奈良時代の753年に製作したのが薬師寺の仏足石で、日本最古のものです。

③仏足石の足型と薬師如来坐像の足

仏足石の足型は足の長さが約50センチメートルもある大きいものです。その足には千幅輪相(せんぷくりんそう)という車輪の形をしたものなどの瑞祥文が表わされています。そして、私達一般の拝観者は直接見ることが出来ないのですが、薬師寺・金堂の本尊である薬師如来坐像の足裏にも、仏足石の足型とほぼ同じ瑞祥文が刻まれています。

④仏足跡歌碑

仏足跡歌碑は仏足石歌碑とも書きますが、仏足石を礼拝する功徳などを詠んだ21首の歌を大きな細長の石に彫った碑です。歌は五七五七七七の三十八文字で一般の和歌より七文字多く、仏足跡歌体と呼ばれるものです。歌碑の制作年代は不明ですが770年頃と推測されています。この歌碑の素晴らしいところは、万葉仮名で書かれた最古の国語文であることです。

⑤仏足跡歌の一例

仏足跡歌碑で文字が比較的見易い歌を挙げ、その冒頭の万葉仮名を転記すると次の通りです。

「与伎比止乃 麻佐米尓美祁牟 美阿止・・・」

この歌を現代の平仮名で書き、その意味を述べると次のようになります。なお、与伎比止とは釈迦のことです。

「よきひとの まさめ(正目)にみけむ みあと(御跡)・・・」

「釈迦と同時代の人々は、釈迦の足跡を目の当たりにすることができたが、現在の我々は見ることができない。そのため、釈迦の足跡を石に彫りつけ、釈迦を偲ぶ」