§4.般若心経を現代日本語に訳してみる

第1節 はじめに

般若心経の全文訳を取り上げるのは長くなりすぎるので、全体をその内容から6段落に分けて段落ごとの要約を説明します。

段落ごとに要約して読むと、般若心経の全体の文章の流れ(論理展開)が分かり、内容が理解しやすいのです。

具体的には般若心経に次のように段落をもうけました。全体的には背景の図のようになります。

それでは段落ごとに要約します。

第2節 般若心経の各段落の要約

第1項・・・「観自在菩薩(かんじざいぼさつ)」から「度一切苦厄(どいっさいくやく)」まで

  ・観自在菩薩(観音様)は、全ての人を苦しみから救いたいと思い、それが実現されるまでは仏にならず、人々と一緒の世界に住んでいようと考えていました。

  ・観音様は修行していた時、「人間を形作っているものは絶えず変化し、それ自身の性質(固定的な本質)が無いのだ」と明確に認識しました。

  ・そして、般若経の持つ不思議な力、絶大な力について気付き、一切の苦しみや憂いから解放されたのです。

第2項・・・「舎利子(しゃりし)」から「亦復如是(やくぶにょぜ)」まで

  ・観音様は舎利子に次のように教えました。

  ・以前にお釈迦様は、こう言いました。

   「人間は肉体と心で成り立っています。

    肉体は小さな物質の要素が組み合わさって出来た集合体です。

    物質要素の組み合わせも、周囲の環境も、時とともに変化し、それぞれが影響し合って変わっていきますから、『完全に固定的なものはない』と言えます。

    心もいろいろなことで変化し、影響し合って変わっていきますから、『完全に固定的なものはない』と言えます。」

  ・そしてお釈迦様は、世の中のすべてのものは「完全に固定的なものはない」から、何事も変えることができ、人は苦しみから脱却できると説きました。

  ・「完全に固定的なものはない」ということをお釈迦様は「空のようなもの(釈迦の空)」だと言ったのです。

  ・しかし、大乗仏教の智慧が完成・凝縮された「般若経」では、すべてのものが「空のようなもの」ではなく、「空そのもの」なのです。存在しないのです。

第3項・・・ 「舎利子(しゃりし)」から「以無所得故(いむしょとくこ)」まで

  ・すべてのものが無く、人間を成り立たせている要素も無いのですから、その存在を前提としてお釈迦様が説かれた、人の心に苦しみが発生する仕組みと、それを消滅させる方法もないことになります。

  ・つまり、世の中の構成要素の分析や理論によって、世の真実を把握し、人間を救うことはできません。

第4項・・・「菩提薩垂(ぼだいさった)」から「得阿耨多羅三藐三菩提(とくあのくたらさんみゃくさんぼだい)」まで

  ・そのため、悟ろうとする者や、人々を救おうとしている者は、神秘な絶対的な力を持つ「般若経の最重要部分」を拠り所とするのです。

第5項・・・ 「故知(こち)」から「説般若波羅蜜多呪(せつはんにゃはらみたしゅ)」まで

  ・般若経の最重要部分は、あらゆる苦しみを鎮める、信頼の置ける、思いが叶う祈りの言葉です。

第6項・・・「即説呪曰(そくせつしゅわっ)」から「般若心経」まで

  ・思いが叶う祈りの言葉は次の通りです。

   「なろう、なろう、皆でなろう。

    皆が善い生き方をして、幸せになろう。

    思いは叶うぞ。うれしいなぁ!」

第3節 各段落のさらなる要約

各段落の要約をさらに圧縮してまとめると次のようになります。

第1項・・・観自在菩薩は、般若経の持つ不思議な力、絶大な力について気付き、一切の苦しみや憂いから解放された。

第2項・・・釈迦は、世の中のものに「完全に固定的なものはない」から、何事も変えることができ、人は苦しみから脱却できると説いた。しかし、大乗仏教の智慧が完成・凝縮された「般若経」では、すべてのものが存在しないと説く。

第3項・・・釈迦が説いた「世の中の構成要素の分析や理論によって、世の真実を把握し、人間を救う」、ということはできない。

第4項・・・悟ろうとする者や、人々を救おうとしている者は、神秘な絶対的な力を持つ「般若経の最重要部分」を拠り所とする。

第5項・・・般若経の最重要部分は、思いが叶う祈りの言葉である。

第6項・・・思いが叶う祈りの言葉を伝授。

この「各段落のさらなる要約」から読み取れる文章の流れ(論理展開)は、第1項は観自在菩薩が覚ったということを述べ、第2項から第6項まではその覚った内容について観自在菩薩が舎利子に教えているということです。

そして教えの内容は、「釈迦の教えを乗り越えていき、大乗仏教の思いが叶う祈りの言葉を伝授する」というものです。

第4節 般若心経の理解のポイント

般若心経は大乗仏教の思想で書かれた教えです。

釈迦の教え(*1)を乗り越え、新しい大乗仏教の教え(*2)で救われようと説いています。

それが釈迦も望んだ民衆救済につながる方法であるという考えです。

*1:釈迦の教えとは、世の中を理屈で考え、自己努力で救われよう、というものです。

*2:大乗仏教の教えとは、自己努力はしつつも、神秘的・絶対的な力に頼って救われよう、というものです。

なお、前述第1項の観自在菩薩の覚りは、第1ステップとして釈迦の教えを明確に理解し、次に第2ステップとして(思索が深まって)、大乗仏教の教えである神秘的・絶対的な力にも頼るべきことを知った、と解釈すると分かり易いです。

第5節 般若心経の全文訳について

なお、般若心経の全文訳は拙著『般若心経 私のお経の学び(1)』を参照ください。

ページを上下2段に分けて、上段には漢訳の経文を、下段には現代日本語の通読訳(始めから終りまで一通り読み通すことが出来る訳)を載せています。

また、重要単語の逐語訳も書き添えました。

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